構造からはじめよう

学生の論文を見て思うことは、バランスが悪いということ。瑣末なところに冗漫な文章が多かったり、肝腎の部分がさらっと流してあったり。これはひとえに全体に対する目配りが足りないからだ。もう一つは知識が断片的ってこともあるね。ま、研究を始めて半年〜数年ということは、読書量も限られてくるし、これはある意味当然なことではある。そこで私が薦めているのは「構造からはじめる」ということだ。
慣れてくれば、最初からだーっと書き始めても書けるものだが、よくよく考えると学生の中にはきちんと論文を書いたことがない人間の方が多いのだ。だから、どの程度の分量で、どんなところに気を配って書かなければならないかが全くわからない。起承転結が云々ってことは知識の上では知っていても、じゃ、実際にどう論文にそれを表現するのか?ってところまでは考えがつながらないものだ。だから、構造。

要するに、形から入りなさいということである。前にも書いたことだが、論文はある意味で、構造さえ捕まえれば、8割がたは出来上がってしまう。ただ、難しいのは、自分のデータを持っていないと、いくら勉強しても見につかないということだ。だから、OJT的な勉強法が役に立つ。具体的には、学会発表した後に、その内容を論文に落としてみるのだ。学会発表したということは、自分のデータを持っているということ。それを具体的に形式にあてはめる。ま、パズルみたいなもんですな。で、このときに大事なのは、自分が所属している、あるいはその論文内容に適切を思われる、実際の投稿規程にあわせて書くということだ。例えば、私が所属する某学会だと・・・。

  1. 日本語タイトル
  2. 日本語著者名
  3. 英文タイトル
  4. 英文著者名
  5. 欄外表題
  6. 脚注  日本語所属名・英語所属名・英語所属住所
  1. 英文アブストラク
  2. キーワード
  3. 概要(和文適用)

 ここまでが、前置き、そして本文

  1. 緒言(はじめに)
  2. 材料と方法(実験方法)
  3. 結果
  4. 考察
  5. 結論
  6. 謝辞
  1. 文献
  2. 図の表題と説明
  1. 投稿票

ま、こんなカンジだ。てか、これでどこの学会誌でも通用する。中には、結果と考察とまとめさせるところもあるけどさ。これに、今持っているデータをはめ込んでいくわけだ。
1.何よりも、まずは、上に書いた各項目をページの最初の行に持ってきて、スペースを作っておく。
  脚注までが1ページだな。英文アブストラクト&キーワードで2ページ、和文適用で3ページだな。
本文部分は、各項目で1ページづつ作っておく。図や表は、1つに1ページ。投稿票も1ページ。上の例に従うならば、20ページぐらいになるんじゃないかな?ほら、もう大分書いた気分になったでしょ?(笑)

タイトルや著者名は、とりあえず学会発表のままにしておけばいい。
英文アブストラクトは、英語が得意でなければ後回し。和文の概要は、学会発表をしているのなら、講演要旨をそのままコピペする(笑)。

さて、本文。素人は、つい緒言から書き出そうとして挫折する。緒言は、発表要旨をコピペすればよい。

まずは、とにかくグラフを貼りましょうかね?このときに、エクセルで作ったグラフならば、リンク貼り付けにしとくこと。後で、エクセルのグラフを変更すれば、自動で変更できるからね。カラムの色とか、グラフの文字の大きさとかね。さらに、グラフを張り終わったら、図の表題と説明を書いておこう。
図のタイトルを書いておけば、後で結果を書くときに苦労しなくて良いはず。さらに、各バーの説明、データの表し方(平均±標準偏差か標準誤差か)、nがいくつなのか?有意差は、何%水準なのか?

次は、考えなくてもできる実験方法をつらつらと書く。自分でやった実験ならば、これは書けるはず。だけど、一度も書いたことが無ければ、どういう風に書けばいいのかわからなくなるはずだ。そこで、似たような分野の論文をつらつらと眺める。

材料、試料の調整方法、実験区の設定方法など書き方が見えてくるだろう。
例えば、「××メッシュを通過した〇〇きのこ粉末(含水率7%)を、3倍量の熱水(80℃)で1時間抽出し、減圧濃縮した」とかね。

結果も簡単だろう。まず考えることを止めて、グラフを最初から、一々言葉に直していく。
例えば、「〇〇きのこの××に対する抑制作用の結果を図1に示した。コントロールである△△は、抑制率▲▲%であったが,〇〇きのこ熱水抽出物は、抑制率●●%と、コントロールに比較して有意に高かった(p<0.01)」てなカンジ。


ここまでくれば、後は、緒言と考察だけだね。和文適用や英文アブストラクトは、これが出来ていないと、書けない。どんな考察=結論にしたのかわからないとね。

緒言は、文字数が制限されていることもあるので、与えられた範囲内で書いてみる。基本は、自分の考えではなくて、必ず引用文献に基づいた記述であること。
例えば、「きのこは、菌界に属す生物である」という記述を思いついたなら、どの論文あるいは教科書に書いてあるのか、という出典を明らかにした方が良い。ま、あんまり当たり前なことは、引用する必要はないけどね。

さて、考察。こればっかりは、現物がないと書きようがないのだが、要するに、この実験で得られた結果から、
1.過去に発表された科学的事実と同じことがわかったのか、違うことがわかったのか。あるいは、全く新しい事実がみつかったのか?
2.この結果の意味することは何なのか? 
3.それは何故なのか?過去に似たことを示唆する論文があるのか?
4.今後、どのような研究が必要なのか?どうするつもりなのか?
あたりを書けばよいだろう。

ま、ここまで書けば、後は、周りの人間に見てもらって、ディスカッションして、より深めていくしかない。自分で考えて最高の考察が出来るなら、こんな文章読む必要ないしね(笑)。

あ、文献は、いちいち手書きで書いたりしないように。ちゃんと文献整理ソフトで管理して、そのIDを入れておくだけでいい。機械がやってくれることに気を取られて無駄な時間を取られないようにしましょうね。